我が子に罪を犯させたい親がいるだろうか・・・。 ふとそう思う。 自分が罪を犯してきた存在だからか・・・。 一番上は、幸いにも、母の遺伝子が勝ったらしい。『組織』とは無縁の人生を送ることが出来た。 二番目は『組織』に入り、ようやっと卒業したところだった。自分より、<力>は弱かったが、将来性に目をつけられた。 友威、お前はどうする?? 『組織』の手をとって一時の安堵とその後の人生を鎖に縛られるか、罪悪感にまみれながら、なんでもないように生きるか。 親としてこんな選択をさせたくなかった。 こんな想い、尚也の時だけでもう、こりごりだ。 衝撃(2) 電話の主は、雪村葉舟だった。 システムーCに属す中1の少年。システムーCなら、ある程度の個人情報は引き出すことは可能だから驚きはしないのだが。 「どうしたんだ?」 『組織』 卒業後基本的にはシステムーCとは縁が切れている。仲間内の連絡ぐらいだ。 だが、葉舟の次の一言で尚也は唖然とした。 「弟さん、久保友威君のことでちょっと。 実は、1年ほど前から友威君があなたと同じ<力>があることは分かっていたのですが。 今日の朝に、たまたま、車に轢(ひ)かれそうになって、とっさに<力>を使ったそうです。 車の方は大破しましたが、運転手が怪我をしました。友威君は大丈夫です。 警察側は赤信号の交差点にはいった車を、友威君のとっさの判断でよけたものと見ています。 ですが、実際は、友威君自身が<力>を使ってよけたのです。 たぶん、相当なショックを受けているかと思いますが、万が一友威君が福岡を離れた方がいいとなった場合『組織』が見ます。」 尚也は愕然となった。友威まで<力>があったなんて。だが、それは予想すべきだったのかもしれない。 高槻兄妹や双子も持っていたのだから。 「とりあえず、おれはどうすればいい?」 まだショックを隠せなかったが、尚也は葉舟に聞いた。 「とりあえず、フル・イヤールの福岡大前店へ。市井さんと弥生さんが動いている。」 「了解」 そこで、尚也は電話を切り、「しばらく出かける」の書置きを残して家を出ようとした。 午前11時半のことである。電車で30分。生まれ育った家の近くではなく、どちらかというと父正義の会社の近くに、 指定された、喫茶店がある。もちろん『組織』御用達だ。 店に入ると、奥まったところに弥生と市井がいた。 「よぉっ。久々?」といって、弥生と真向かいの通路から見て奥に座る。 「んで話って何?友威に関係あることだろ?葉舟が言っていたけど・・・。」 早速話し始めようとしたら、 「久保君、実はもう一人幹部の人が来る事になってるの。営業の合間に来るって言っていて、そろそろのはずなんだけど・・・」 と弥生は言い、何か言いたくてもいえない事情があるらしいと思う尚也だった。 チリンチリン 喫茶店の入り口につけられていたベルが鳴く。誰か入ってきたらしい。昼時だから、ここ記念の会社の人間も良く使うのか、スーツ姿の人間も多い。 それを何度か聞いた後に、尚也たちが座っている席に一人の男が近づいてきた。尚也の席からはその人物は見えない。だがこの気配は知っている人物だった。 「どうも?。わざわざ福岡まで・・・。ひさびさだよな、市井」 その声の主は尚也の父正義のものだった。 「どうしてっ親父が・・・。」 と絶句する尚也に、正義はいすに腰掛けてから、 「そう、俺も『組織』の人間なんだ。いや、だったに近いか・・・。中3のお前が悩んでいるときに渡りをつけたのは俺だ。一人の父親として、最大の譲歩期限ぎりぎりまで自分の息子を入れたくなかった。 でも、どうしようもないときがあるんだ。お前も分かるだろう?あそこにいたお前なら・・・。」 親父が『組織』に入っていたなんて思いもよらなかったが、 今はそれどころじゃない。友威の問題がある。状況を説明してもらわないといけない。 なぜ、こんなに早く『組織』が動いたのか・本来別件があってその用事があったところに、友威の件があったのではないだろうか。 その事を話すと、弥生は「そう言うことよ。本当は13歳の少年のスカウトに来ただけ。読心と暗示の能力をもっていてね。どうにもなんないから、来たのよ。それ以上は・・・。」 と言った。 その後どうにか気を取り直した尚也は、市井から詳しく聞いた。 その内容は、どうやら友威が登校時に遭遇したスピード違反が原因の玉突き事故が交差点で起こったらしい。 友威はたまたま、無意識に<力>を使ったとはいえ、スピード違反の車は大破。左前をガードレールにぶつかっただけなのに、運転手は死亡。後続の車も何台か壊れていた。 それを見た友威は怖くなってしまったそうだ。精神的に幼い友威にとって、自分の目の前で起こった事故は初めてだった。 しかも、たまたま駆けつけた警察官に「僕はやっていない。」と繰り返したらしい。たまたま、1人の巡査が『組織』出身者だったこともあって、福岡支部に連絡が行ったらしい。 これを聞いた時、尚也はそろってしまったんだなと思った。 まだ、無意識でならいいのだが、罪悪感にまみれているなら、条件がそろってしまった事になる。 そして実は1回スカウトの条件が12月にそろってはいたのだが、幹部である正義のたっての願いで、1回のみ延期されたこと。 次々に明かされる、無邪気な友威の隠していた事に驚きは持ったが、あまり騒いでも意味がない。今日自分が呼ばれたことは、決定に近い、もしくは決定事項なのだ。 精神的に暗くなりながら、正義に言った。 「もう無理なのか」と・・・。 もう、友威が一般人として生きていく事はもう無理なのかと・・・。 そして、自分が『組織』にいたと言う事を友威に隠せないのかと・・・。 2つの思いを込めて正義に言った。 正義が答える前に弥生が言った。 「簡単に言っちゃうと無理だよ。友威君の場合、お父さんと久保君が関係者って事もあって、特別猶予だったのよ。 津田先輩も、双子ちゃんたちも、直談判しにいったの。 でも、ダメだった。1度はあっても2度目はないことを知っているから・・・。あとは友威君しだい。」 2度目に友威が来た時、自分の仕事で手一杯で、アネキが妊娠した事とかは知らせてきたのに・・・ 友威の変化に気づいてやれなかった。無邪気さの中の陰に気づいてやれなかった。 心の中で葛藤しながら、ようやっと尚也は言葉をつむぐ。 「配属先と配置はどこに・・・。」 結局その言葉が出るまでに、喫茶店で一時間以上かかった。正義も重苦しかった。だが、1度『組織』に入った以上、仕方がない。それは自分も重々分かっていることだった。だから、『組織』の意に従う。そんな意味を込めての一言。自分たちは『組織』という籠で一生を生きる。1度『組織』に入った者はそういう定めだ。 そして返ってきた答えは・・・ 愛知県支部だった。 東京本部だと知り合いが多く、また、どうしても、「久保尚也」の弟として見られやすい事。 また、いま、名古屋を中心に東海地方は人員が少ない事や、正義の兄がやはり『組織』の幹部で三河地方のとある土地に住んでいるので、いろんな意味でやりやすいというのが友威が愛知県支部に配属される理由だった。 これからのスケジュールは分からない、としながらも、市井は言った。 「お二人には、今回の事は他のご家族には黙っていてください。友威君は、精神的に立ち直るまでという事にしておきますので・・・。」 つまり、『組織』関係者には事実は知らされる。だが、家族には知らされない。というか、知らせれない。そして、状況を知る事はできても、こちらのは、知らせれない。 「せめて、俺がいたと言う事は伝えれますか、訓練期間が終わった後でいいです。そうすれば、少なくても精神的なフォローはできます。俺は・・・あいつのためになにかしてやりたい。この3年間してもやれなかったことをしてやれると思っていたから。」 言葉をつむぐのにも苦労がいる。こんなときに自分の言葉でうまく言い表せないことがすごく悔しい。だが、これだけは伝えて欲しい統率者に・・・。 正義が驚いた顔をする。これまで、自分が幹部として関わったスカウトはかなり多い。 塾の講師のため、昼間は浪人生・夜は普通の受験生を見ているので何とも言えないが、 中には兄弟が別々の時期にスカウトされてというパターンがよくある。 だが、正義がスカウトするのは、仕事柄受験生(特に高3)が多い。 そして、自分は尚也がしたような要求はしなかった。親という立場よりも幹部という立場を優先した。だから震える声で正義はつむぐ。 「尚也、それは―――」 その声をさえぎるように、市井が言う。 「確かに難しいかもしれませんが、前例も有りますし、いったん彼に話を通します・・・」
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