ラファエルに再会して20年近く、いずれこうなることは、分かっていた。
ユーベルメンシュとして生を受けた彼は自分たち仲間を置いていくということぐらい。
分かってはいたのだ。 覚悟はしていたんだ。
でも・・・。
思い(1)
火星の月面都市政府大使館に、火星都市の軍服姿の女性が現れた。彼女の名はレジーナ・キャッスル・アフォルター大佐。月面都市政府大使館は現役の軍人が来たことで、騒然としたが、大使館の警護を勤めるゲヴァラが出てきたことによってその場は収められた。
ゲヴァラが大使館内の応接室に通すと、ようやっと、緊張の糸をほぐした。
「お久しぶりです。大尉。あっ、今では大尉ではなくって、准将でしたね。」
「久しぶりだよ曹長。こっちも昔の癖が抜けなくてすまない。」
そう言いつつゲヴァラ自らお茶の準備をする。
「それで、今回は大使へ、伝えなければいけないことがあるのじゃないのかい?」
そう聞きながら、ゲヴァラはキャッスルの分のカップを用意する。
「ええ。こちらの元首、フリードリヒ・シュトラスベルグが2週間後に衛星会談をお願いしたいそうなんです。
そのことについて、シュタイナー大使と話し合いたかったのですが、今大使は大学で講義中ということですので。」
そういっている間にティーポッドに茶葉を入れていく。そして沸騰したお湯を入れる。
「分かった。そのことについてはこちらから言っておく。」そう言って事務的な雰囲気を壊す。
「そういえば、ラファエルは大丈夫か?数日前も発作を起こして倒れたと聞いたが」
「そうなんですよ。やはり分かってはいても、誰も代わってはあげれないですし・・・。シドーがたぶん持ってあと数ヶ月じゃないかと言っていました。そう言いつつ、キャッスルの顔には曇りが走る。
「でも、大丈夫です。峠を超えましたから。軍を早々と3年前に退官したのが良かったのではないのかなと思います。
あの父親のように軍部のトップでしかもその後変な政治をやりたくないって…。まぁ、そのころにはラファエルの身体にもがたが来つつありましたしね。それでなくても、財閥の当主の仕事はあったので。」
それは、一家の母というかおをしていた、キャッスルの自分に言い聞かせている言葉のようだった。
「お茶ありがとうございました。」そういって、キャッスルは部屋を出て行った。
それを見送りながら、ゲヴァラは思いを馳せる。
ゲヴァラにとってはレジーナ・キャッスル・アフォルターとアロイス・ラファエル・アフォルター夫婦は部下であったと同時に今でも気にかけている家族といってもいい仲である。
月面都市政府内でもあの戦争以降はさまざまなことがあった。
まず、7大財閥の解体を筆頭に、月面都市政府はかなり民主化された。たった20年弱。その年月を思うよりもまず、やはり思い出は、治安部隊に居たころのほうが多い。
あのころは、今と違い、生と死が今よりも身近にあった。
治安部隊とともに過ごしたのは12年近い。
そのうち最後の3年ほどは実り多いものだと思っている。その最後の3年ほどというのは、キャッスル率いるコタナキバルの第2分隊やその分隊所属の兵士の親に翻弄された時期だが。
自分としては、降格覚悟で、エイゼン達の脱走を黙認という形でアクラいかせた。
それが、彼らや自分を時代の本流に巻き込むなんて分からなかった。
でも、それが今を生きていることにつながっているのだと思う。
そういえば、軍曹いや、今は火星陸軍の准将であるエイゼンには恨まれたことがある。治安部隊時代に自分が、彼の義足についてキャッスルにホ°ロっと言ってしまったことについて。
火星に来て凄くそのことを言われた。
彼にそんな執念深さがあるとは思わなかった。
自分と同じように士官学校にいたエイゼン。そのことを知ったのは、グットリー少尉からだった。なぜ、気づかなかったのかと自分を責めた。彼の状況判断の的確さは士官の特有のものだったのに…。そして、彼は、土壇場で学生総長を裏切っている。あの事件が彼の心に傷を残しているのは見ていて分からないが、瀕死の重症を負ったときに、心に傷が残っていたんだとシドーは言っていた。
クーデターが起きたあのころには、治安部隊に居て、月面都市のクーデターを横目に、終わりない戦いをしていたその時に…。
「軍曹は、治安部隊にいたとき、ときおり自分たちよりも的確な状況判断をしていまし特有のものだったのに…。た。それは、大尉もご存知だと思います。的確な訓練を受けた人間じゃなきゃ、クアラルンプールのような判断はできなかったと思いますし。
リグ中尉に聞いて分かりました。軍曹は、あのクーデターのとき、居たんです。士官学校の最終学年に…。
そのあと、自主退学という形で軍を1度除隊しています。その後、オブライエン少将に曹長の護衛として契約するまで。彼が軍と治安部隊にいた形跡はありませんでした。年齢的にもあっていますし、狙撃手の大会で士官学校生で、軍の大会に出場しています。中尉の友人に狙撃手がいたので。」
少尉はあの戦争の直後、月に戻った。
軍事行動時に勝手な行動をしたことで、軍は少尉の軍籍を剥奪した。だが、剥奪だけに終わったのは、軍上層部が混乱していたからだ。普通なら銃殺刑もありえた。
だが、戦後の混乱は、グッドリー少尉にも、過去の第2分隊にも、そして自分にも良いように風が吹いた。
想いは風に。想いは人に。人の想いが国を動かす。
あの頃の仲間の死が身近に迫っている。
分かっていたこととはいえ、それはつらい。だが、彼は、どんな想いで戦後を過ごしてきたのだろうか。
ついにキルゾーンです。そういえば、二次小説でコバルト文庫って少ないですよねって自分が探せていないのかも知れませんが。長編ですのでまったりとおつきあいください。