発覚

 一護が隊長職について早15年。あの騒乱からいつの間にか35年の月日がたっていた。友人である3番隊隊長の阿散井恋次がこの部屋に居座ることに慣れてきている自分に呆れてはいたが…。
 理由は前任者で今は15番隊3席の市丸ギンだろう。対藍染戦の影の功労者であり、そのために護廷隊長の座を捨てたある意味分かりやすい性格のキツネ男だというのは彼の妻である松本乱菊もとい市丸乱菊の言である。
 何しろ、幼馴染と部下を元上司に人質にされ、表面上おとなしく従いつつ、浦原と連絡をとり、護廷に藍染対策をとらせた張本人である。それを知って、現隊長・副隊長sは隊長職に戻ることを望んだのだが、本人は護廷に迷惑かけたのだからとかたくなに固辞し新設された
15番隊への異動を望んだのだ。 だが、市丸親衛隊の異名を持つ3番隊隊員のために、週に3回ほど結局は出張っているため、自分の隊にいながら自分はのけものだ、そう呟いていた。
「そういや雛森は」
ひとしきり、愚痴ってすっきりした恋次は己の同期の姿が見えないことにようやっと気付いた。
「ああ、雛森なら今日から3カ月の予定で鬼道衆に研修。ってお前んとこのルキアと一緒だぞ」
「そういや、鬼道に関して言えば13隊の中でも、ルキアも雛森も達人の域だからな」
「まあな。それに比べて俺は人並みにが精一杯。雛森に関しては、あれのいい面での置き土産だと思っている」
「で、ここに来るついでに、持ってきたんだろ。隊首印が必要な書類」
「ああ。これだ」
さくさくと読んで一護は隊首印を押していく。いつの間にか隊長職の職務に慣れてしまった。 そして、突き返した。今回は他隊に回す分はないので、恋次に突き返して終わりだ。後は恋次が総隊長に提出すればこの書類は終わる。そしてまたたわいもない世間話に興じる。ふと一護は父親のことを話題にした。一心は元々死神であり、一時期は隊を持っていたらしい。藍染のことがあったのと、たまたま現世での虚討伐中にであった真咲といつの間にか結婚したという。その時の支援者が浦原だというのは言うまでもない。
「そういやさ、親父が」
「一心さんだっけ」
「ああ、そろそろ、義骸のほうが寿命らしくってこっち戻ってくるんだと」
「あの特殊なやつの義骸だっけ。霊子分解するのに入ってて気づかなかったっけ俺ら」
そう、浦原の支援の1つは霊子を分解し続ける義骸。入っていると、そのうち尸魂界からは捕捉できなくなる義骸で、藍染の件ではルキアに使用された。その義骸に一心も入っていた。藍染のことが無ければ人として一生を終えるつもりだったらしいが、結局死神復帰していた。本人は担当者がいるならとあんまり死神化しなかったが。知っている数十年の形跡だと、数年に1回あるかどうか。しかも、義魂丸使用しないでらしいから、ここ10年は死神化していない。
「確か死神としてはベテランだろ。対藍染の時も現世でのつなぎの1人だったよな。言われるまで知らなかったし、一心さんも肝心なのは隠すし」
ベテランなのは言うまでもない。京楽の隊や他の隊で長年席官を務め、過去には一隊をひ率いてたという経歴からすれば人手不足の護廷には願ってもない人材だ。
「そうなんだよな。浦原さんに戻ってくるって言われて俺も考えた。けど、隊長格の死神復帰の場所って言われても息子と同じ隊とかさそういうのはやりにくそうで、他隊も席間移動になるだろ。結局15番隊らしい。あそこはほんと何でも屋だし」
 コンコン
3番隊の吉良です。阿散井隊長回収しにきました」
そういって吉良が戸を開けた。勝手知ったる他隊の隊首室に返事も待たないで入るのは吉良かルキアぐらいだ。しかも、吉良は自分の隊長が書類を持っていったのを知っていたし、何より声が聞こえているので返事も待つことなかった。
「ほらほら、お前が油売りすぎていると副官来ちゃったじゃん」
「吉良。せめて返事ぐらい待てよってか回収て何だよ回収って」
と吉良に八つ当たり気味な恋次に
「吉良に八つ当たりしないで、いいかげん自分の隊に戻れ」
と一護は3番隊の主従を追い出した。
 
 その後一護は次回の隊首会の資料を作成し、護廷の保育舎に2人の子どもを引き取りに行った後自宅に戻った。慣れた手つきでたつきの用意した夕飯を食べさせて風呂に入れた。昔取ったなんとやら。というわけではないが、幼子の世話は妹たちので慣れている。あと10年くらいしたら、霊術院だろうな。そう考えている。
 妻のたつきは今日は夜勤だ。たつきが実は隠密機動に異動して欲しいとの要望を隊長権限で蹴り続けていることがばれて、大ゲンカした後初めての夜勤だった。
 高校時代インターハイで2位をとる空手の実力をもつたつきにとって拳は隠密機動でも通じるのだが、過保護気味な夫に異動を蹴られ続け、さらに直属の上司にも異動を蹴られている。今夜は冬師郎が犠牲になるかもと思いつつ、寝かしつけた。
 一隊の長である以上、仕事はたくさんある。特にこれから3ヶ月は副隊長業務と兼務だ。さすがに、護廷側も心得ているので、討伐任務は11番隊にわりふられたがその交換と言うべきか書類系の任務が多く来ていた。
 まぁ、勝手知ったる11番隊だ。8年ほど過ごした場所であり、書類業務はあそこの隊長があまりやりたがらないので、上昇志向の強い隊員は結局事務方の仕事をさせられ、慣れたころに他隊に異動が多かった。一護自身も、実際に死んでから、自分が隊長候補だと知ってびっくりしたが、更木隊長の下で死ぬ気が無いんだったら、卍解を習得している以上、上を目指せと一角が告げた。それに、隊長たちの間では、数年から10数年で卍解可能な黒崎一護と阿散井は隊長にというのが内示されているといわれ、あきらめるしかなかった。どちらも経験を積んで隊長不在の隊の長に。というのが護廷の総意と言われた。おかげで書類業務にはなれたし、副隊長も一応経験済みなので職務内容は分かってはいるのだが、こうやってサービス残業するのは現世と変わりないのではないかと思う一護だった。


 亥の刻を半時過ぎてようやっと書類仕事に目処がついた一護だった。さて明日も卯の刻には起床して子どもたちの朝食を作らなきゃなと思いつつ、寝ようとおもったときだった。
「一護君起きてる」
と京楽が夜更けなのに突然訪ねてきた。
「どうしたんですか、こんな夜更けに」
とりあえず、あまり使わない応接間に通した。京楽春水は今でこそ同僚だが、先輩でもあり、そして、伯父嫁の叔父という少し複雑な関係だった。
「舞華さんか、親父になんかありました」
 舞華さんは伯父の一成(いっせい)の嫁で2人の子ども(自分にとってはいとこ)がいる。また、親父-一心の最初の上司が京楽だったこともあって、たまに覗いてくれる尸魂界での親戚である。京楽にほうじ茶を出すと、京楽は話始めた。
「一心君は今夜来るよ。予定が早まってね」
「予定が…」
「うん、本当は武(たけ)さんから聞けばいいとは思うけど、俺の家にも連絡があった。一応親戚だからね。よく聞いてね」
そう言って、京楽はお茶を一口飲むと、
「昨日、一葉(かずは)さんが亡くなった。病弱でここ数年起きれない状態だったけど」
「えっ、一葉姉さんが…。体弱いって言ってたから俺の結婚祝いに逢ったきりだけど」
「うん、確かそうだよ。僕もそれが最後だ。家からあまり出る状態じゃなかったし。一葉さんが亡くなって一心君も予定を早めた。彼にとっては実の姉だしね」
「ってことは、忌引きとらなきゃいけないんじゃ」
「うん、今後のこともあるからって武さんが一心君を一番隊舎に迎えに行っている。たぶん、君のことも総隊長に掛け合っているよ」
そう言ってため息をついた。京楽は死神稼業も長いが、上級貴族の次男として貴族の冠婚葬祭や死神同士のそういう場にでることも慣れてはいる。だが、今回は霊王家だ。しかも、一心は自分の出自を息子に伝えていない。どう伝えようかと思いつつ考え込んだ。京楽がもう一口お茶を飲むと玄関の呼び鈴が鳴った。
 「たぶん、親父たちだろ」
そう言って一護は玄関に出た。
「よう、京楽さん来てんだろ」
そう言って一心は勝手知ったる息子の家の応接間に向かう。一応10年前と間取りは変わっていないというのは京楽からの情報で分かっていた。とりあえず、麦茶なら冷蔵庫に用意しているからと、一護は麦茶を4人分用意して自分も応接間に向かう。一護が各自の席の前に麦茶の入ったグラスを置いた。それを合図にしたかのように、一心が話始めた。
「一護、一葉姉さんが亡くなったのは聞いたよな」
「ああ」
「で言っておかなきゃいけないことがある。俺の実家についてだ」
「そういや、あんまり親父実家のこと話さなかったよな。現世でも、ここでも」
「ああ。話してもよかったがタイミングがな。でも、今話さないといかん。今俺がここにいられる猶予があまりないんだ」
長い話になるそう言って一心は話始めた。
 俺は昔、実家から家出というかな、そんな感じで霊術院に入ったんだ。その実家が、霊王家。つまり霊王の一族でな、俺には兄さんも、姉さんもいたから、霊王法によって、希望すれば王位継承権を持ったまま臣籍降下できた。霊王法の規定は直系第3子以下は希望により臣籍降下できることを規定している。まあ、一応王族の人間だというわけだ。で、姉さんが身体弱いのは周知の事実だったから、いつかこうなるとは思っていたんだが….俺は、王族復帰することになる。つまり霊界に行くことになる。いずれはな。だが護廷にはいられないだろうな。姉さんが死んだ時点で、俺の死神の籍は亡くなっている。それでもお前の身分は変わらない」
「ってことは、死神で俺はいられる、って京楽さん知ってたのか」
「いや、ここまでのは知らないよ。だって俺次男だし。ただ一心君の最初の隊ということと舞華のことがあって多少知っている位だ。だが、動くだろうな貴族連中が」
「ああ、だが、様々なことに巻き込まれるだろうな。お前には霊界の継承権は規定によって与えられないし、何より山じいがしぶるだろ」
「で、一葉姉さんが亡くなったということは、俺も葬式に出なきゃならない。だが、子どもたちいるし。職務が滞りそうだな」
「子どもは、阿散井君とこに頼めばいい。たぶん、朽木から話が行くだろ。職務は、10番隊と13番隊に頼むよ。浮竹の体調は今けっこういいしね。それに15番がいるだろう、職務のエキスパートが」

そう言って何が必要なのか。どうすればいいのかを武さんに教わりながら準備した。
「てか自分が王族の血なんて引いてると思えないんだけど」
そうこぼした一護に武さんこと武田雪舟斉は言った。
「そうでしょうね、一心殿もこぼしておられましたよ。父親が霊王だなんてと。彼は死神業の方があっていたみたいですから」

 武田雪舟斉。霊王家の侍従長だ。一護とも何度か面識がある。実の祖父よりも会うことが多いのは立場上かと思うが、よく来ていた。
「俺大丈夫かな。儀礼的なこと分からないけど」
「どうにかなると思いますよ。それに陛下は逢いたがっていますし。あなたやたつき殿に」たつきのことを言われてそう言えば今日は夜勤だったことを思い出す。戻ってくるのは朝の9時近くつまり辰の刻をすぎないと帰ってこない。 
「ってたつきは夜勤なんだけど」
「それに関しては京楽殿がもう地獄蝶で連絡されていましたのでそろそろ帰ってくるころかと」
 
そうして夜は更けていった。